東京大学
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻
English

能瀬研究室 - 神経回路の設計図と動作原理を探る -

項目

脳・神経系はニューロン同士が配線し回路を構成することで機能します。したがって、脳の情報処理の仕組みを解明するには、回路を構成する多数のニューロンをシステムとして理解しなければなりません。このために、以下の2つの方法論が必要とされます。
 1. 回路の構造、すなわちニューロンがどのように配線しているのか、を解析する。
 2. 回路のダイナミクス、すなわちニューロンがどのようなパターンで活動するのか、を解析する。
以上の回路の「静」と「動」に関する知見をもとに、回路内の情報の流れを明らかにし、さらに背景にある論理を探ることができると期待されます。最近、これらの方法論において大きな技術進展があり、脳の研究に革新をもたらしつつあります。例えば、コネクトミクス解析は複雑な脳のなかでニューロン同士がどのように結合しているのかを明らかにします。またカルシウムイメージングを用いると多数のニューロンの活動を系統的に解析できます。さらに光遺伝学は光により特定のニューロンの活動を操作することで、個々のニューロンの機能や回路内における情報の入出力関係を明らかにします。私達は、このような技術革新を比較的単純なショウジョウバエ幼虫の神経系に適用することで神経回路の作動原理を探っています。脳情報処理の機能単位となるような基本回路を見つけ出し、それをモデル化することで脳を理解するのが目標です。このため、以下のような研究テーマを追求しています。



運動パターンを制御する中枢回路を探る

動物のあらゆる行動は多数の筋肉を順序正しく収縮させることで実現されます。私たちは、ショウジョウバエ幼虫のぜん動運動をモデルとして、中枢回路がどのようにして特定の運動出力パターンを生成するのかを探っています。このため、運動中に特定のタイミングで活動し、したがって運動の制御に関わるようなニューロンを探索し、その活動を光遺伝学により強制的に活動させたり、逆に不活性化させたりしたときに、運動のパターンにどのような影響が出るかを調べることで、その役割を解析しています。さらにコネクトミクス解析を用いてこれらニューロンがどのような回路構造を介して運動を制御しているのかを探っています。これまでに運動の速度の制御に関わるニューロンを同定することや(→最近の研究成果)、運動活動の体節間伝播を介在する神経回路を明らかにする(図、→詳細はこちら)ことに成功しています。今後さらに多くの機能ニューロンを同定し、それらが構成する回路の構造と機能を明らかにすることで、神経回路が運動パターンを生成する原理を解明したいと願っています。



多ニューロン活動データの統計解析により行動の背景にある回路のダイナミクスに迫る

最近の研究により、様々な動物の行動はニューロンの集団活動により創出されることが分かってきました。私たちは、ショウジョウバエ幼虫の脳神経系を構成する大多数(数千個)の神経細胞の活動を経時的に測定し、得られた高次元時系列データから、クラスタリングや次元縮約といった数理的手法によって情報を抽出することで、神経回路全体の巨視的ダイナミクスを捉えることに成功しています(図)。また、運動中の特定のタイミングで特定のニューロンの活動を光により操作することにも成功しています(→詳細はこちら)。現在、これら手法を組み合わせ、光操作による神経活動への摂動が回路全体のダイナミクスに与える影響を精査し、さらに理論モデル解析することで、ニューロン集団の活動がどのようにして特定の行動を生むのかを理解しようとしています。



行動選択の回路メカニズム

外界との相互作用のなかで生存に最も適した行動を選択することは、脳神経系の最も重要な機能です。しかしその背景にある回路機構はほとんど分かっていません。私たちは幼虫の前進・後進の切り替えをモデルにしてこの問題に取り組んでいます。これまでに、前進あるいは後進時に特異的に活動し対応する行動を誘起するようなニューロンや、行動の切り替え時に特異的に活動するようなニューロンを同定し、さらにそれらが構成する回路の構造を明らかにしつつあります。また上記の手法を用いて行動選択の背景にある回路ダイナミクスを探っています。このような解析を通じて、行動選択の基本メカニズムを明らかにしたいと願っています。



機能的神経回路の発達機構

自律的に自身を形作り機能を獲得することができるという自己組織能は脳の大きな特徴のひとつです。脳神経系を構成する多数のニューロンはどのようにしてお互いに配線し、機能的な回路を作り上げるのでしょうか。この問いに答えるために、長年私たちは個々のニューロンの配線が形成される過程を生体内で可視化し、さらにこの過程を制御する機能分子を同定してきました(過去の研究成果や研究背景については以下をご参照ください)。現在、これまでの単一ニューロンレベルの研究を回路レベルに発展させ、複数の神経配線からなる機能的な神経回路が、どのようにして構築されるのかを調べています。特に、運動回路が出力した運動の結果を自身にフィードバックすることで、適切な機能回路を構築する仕組みを探っています(図)。幼児のよちよち歩きの例において明らかなように、動物は運動の結果を常にモニターし修正することで適切な運動能力を発達させます。その背景にある神経回路の仕組みを明らかにすることが目的です。




→プレスリリース 「脳内の目印分子」
→プレスリリース 「神経細胞にNo!というシグナル」


→プレスリリース 「神経細胞がつながる瞬間」
→プレスリリース 「神経細胞の双方向認識」

ページ先頭へ戻る

LINKS

  • 東京大学(別窓)

  • 新領域(別窓)

  • 理学部(別窓)

  • メゾ神経回路(別窓)
.
Copyright c 2011 Nose Laboratory. All rights reserved.